5.14.2011

歓迎

2011年4月24日、天津飛行場のタクシー乗り場はいやに混んでいた。この日は成田空港から天津への直行便がなかったので、大連から国内便を使って天津に着いた。そのためか、並んでいる客は中国人ばかりだった。40人ほどの乗客が、まともに列を作ることなく、お団子のようにひしめき合っている。それに対して、タクシーは1台しか来ていない。それも大量の荷物を積み込むと、よたよた揺れるようにタクシー乗り場を去っていった。

 さて、どうしたものかと迷っていると、1人の屈強な男が近づいてきた。
 「どこまで行くんだい?」
 「河東区にある世嘉ホテルまで」
 「ああ、知ってる。でも、3人もいて、荷物もこんなに多いんじゃ、大きい車を使うしかないなぁ。ん~~、そうだなぁ、150元でどうだい?」
 「150元?」
 ということは日本円で約2000円。安いものだ。このままタクシー乗り場で待っていれば、おそらく1時間待っても順番は来ないだろう。
 「150元ね。いいですよ、お願いしましょう」

タクシー運転手は放射能汚染を恐れ乗車拒否しようとした

 ここまでは中国語で話し、私は2人の日本人の部下を引き連れて、屈強な男が案内する駐車場まで行こうとした。その日本人2人は中国語が話せない。日本語で説明するしかない。
 「150元だというので、決めましたよ、いいですね。この人の車が停めてある駐車場まで荷物を運んでください」
 すると、男が飛び上がるようにして振り向き、2人を見た。
 「ちょっ、ちょっと待ってくれ! い、いま話したのは日本語だろ? 韓国語じゃないよね?」
 「ええ、日本語ですよ」
 「ということは、彼ら2人は、ひょっとして日本人ってことかい?」
 「ええ、日本人ですが」
 「え――っ、ダメ、ダメ、ダメ! じゃあ、ダメだ! ほかの車、探してくれ」
 「なんで?」
 「だって、体に放射能がくっついてるだろ?」
 「放射能? ああ、そのこと。私たちは東京から来たのよ。私だって東京。こんなに元気でしょ? いかなる問題もありませんよ」
 「あの2人は、福島からじゃないのかい?」
 「違いますよ。あの人たちも東京から。それに、たとえ福島からだったとしたって、そこの住民はみんな放射能があるところからは隔離されてるし、危険な領域は封鎖されてるから、結果的にみんな安全が保証されてるんですよ。心配ないわ。メディアの報道の仕方に問題があるんじゃないのかな」
 「そうかなぁ……。でも、日本の魚、食べてんじゃないのかい?」
 「魚?」
 「そうだよ。だって、放射能汚染水を海に垂れ流したんだろ? 日本って国は」
 「ん~…、確かに…。でも、汚染された魚は市場には出回っていないから……」 
(そう信じたい......)
 「いやあ、日本はさ、今まで技術が高くて、食品も安全で、そういう面では世界で一番信用のおける国だと思ってたけど、なんだい、このざまは…! モラルも何もないじゃないか、海を汚してしまって! 海は地球上のみんなのものなんだぞ。それを、自分の国土さえ良ければ海は汚してもいいと思ってるなんて。もう、何も信用できないよ、日本なんか…」
 「そうね、確かに! 分かるわ。でもね、私たち、大連にしばらく滞在してたんですよ。万一放射能があったとしても、もうとっくになくなっているわ」、、、

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