麻酔科医です。
まず、お酒と肝臓の関係を説明します。
お酒は人間の肝臓で処理されてアセトアルデヒドを経て無害な酢酸(お酢)になり、最終的には腎臓から排出されます。
普段からお酒をたくさん飲んでいると、それを処理するために肝臓の酵素が徐々に増え、どんどんお酒を分解できるようになります(酵素誘導といいます)
このお酒を処理する酵素は同時に薬物も処理しますので、普段お酒をたくさん飲んで酵素が増えている人ですと、痛み止めなどの薬を飲んでも同じようにどんどん分解してしまうので、有効成分(肝臓で分解される前の状態)が血液中に存在する時間が短くなります。
そこで「酒飲みは薬が効かない」と」いわれるのです。
※ちなみに、酒と薬を一緒に飲んではいけないというのは、酒も薬も同じ酵素が処理するので、酒を分解するために酵素が使われてしまい、薬を分解できる酵素が減ってしまって、結果的に血液中の薬の有効成分が想定以上に上がってしまって、過剰投与したのと同じ状態になってしまうからです。
ただし、お酒の飲みすぎでアルコール性肝炎または肝硬変になってしまった人というのは、正常な肝臓組織が減少しており、酵素を作る力も落ちてしまいますので、一転して極端にお酒に弱くなってしまいます。当然、薬も想定以上に血液中濃度があがるので、少量ずつ慎重にしか使えなくなります。
さて、麻酔と一口に言いますが、大まかに「局所麻酔」と「全身麻酔」に分かれます。
「局所麻酔」についてですが、これは歯を抜くときや手足の傷口を縫うときに行う局所注射の麻酔です。
この際に用いる局所麻酔薬は、血液中の酵素によって分解され、肝臓はほとんど分解に関与しません。
したがって、局所麻酔に関しては酒飲みだろうが下戸だろうが、あまり関係はありません。
局所麻酔の聞き具合というのは、対象となる神経にどれだけ局所麻酔薬を伝達できたかの差にすぎません。
歯医者の麻酔があまり効かなかったというのは、対象となる神経の近くにうまく麻酔薬が広がらず、神経のブロックが不完全だった可能性が高いです。
もちろん痛覚の感受性には個人差がありますし、同じ患者さんに対して同じ医師が麻酔しても毎回同じように薬が広がらないこともありますから、一概に麻酔をした医師の技量だけではないのですが・・・
※ちなみに、歯医者の麻酔が効きすぎて気分が悪くなったという人がたまにいますが、それは麻酔が効いた際に迷走神経反射を起こしたか、効かないといわれて局所麻酔薬を追加するうち基準量を超えたか、もしくは血管内に局所麻酔薬が流入して局所麻酔中毒を起こしたか、のいずれかです。
お酒に弱いから効きすぎた人というのはまずいません。
「全身麻酔」でも吸入麻酔薬の場合は、現在日本で使用されている吸入麻酔薬はほとんど肝臓で代謝されないので、これもまた酒飲みだろうが下戸だろうがあまり関係ありません。
問題になるとしたら「静脈注射で投与する全身麻酔薬」です。
これは酒と同じで肝臓で代謝され腎臓から排出されますので、先に述べたような酵素誘導が起こっている人では、普通の人以上に薬が必要になることがあります。
ほとんどの麻酔薬には、患者さんの体重あたりいくら使えばどの程度効果が出るという使用量の目安がありますが、それでも普通の人の倍以上必要だった人というのはめったにいません。
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